木曜日, 3月 01, 2007

2月28日アリアス大統領

1948年に憲法で軍隊を破棄した国ということで、戦争や内紛の歴史に彩られる他の南アメリカ諸国とはコスタリカは確かに一線を画していると言えます。同じ平和憲法を保持しているのに、どうして日本とこうも違うのでしょう。それは日本の場合、新憲法が制定されてすぐ実質上の軍隊である自衛隊が創設され、当然撤退するはずだったアメリカ軍がアメリカの戦略上の理由からそのまま居座ってしまっているからです。日米軍事同盟を日本が固守するかぎりそれは変わらないでしょう。

President Arias JPG

オスカー・アリアス大統領

コスタリカに来てよく耳にしたことは、コスタリカ人がとてもPassiveつまりおとなしい国民だということ。また気づいたことは、この国には英雄が存在しません。どの国にもかならず国民的英雄の銅像があちこちあっていやでも目につくのですが、コスタリカにはどこにも見当たらないのです。それは取り立てて目立つことを非常に嫌うとともに、誰かが特出することもよく思わない、という国民性があるからだとラスール・ファンデーションのリタさんが言っていました。そういう国が、70年代と80年代の内乱と紛争が吹き荒れた中南米の国際情勢にいかに巻き込まれずに平和にくぐり抜けて来れたのでしょうか。それこそ非暴力による紛争解決の鍵なのでしょう。とくに隣国ニカラグア内戦の際は、ニカラグア反政府軍(コントラ)を後押しするアメリカ政府がコスタリカに基地を作ろうといろいろ圧力を掛けて来たのですが、コスタリカ政府はきっぱりと”憲法に則って”拒否しました。このおとなしい国民のどこにそんな気概が隠されていたのか驚きです。

当時その平和外交を国際的に展開したのが後にノーベル平和賞を受賞したアリアス大統領です。その類いなる指導力を買われて現在再び大統領に選ばれています。日本を出る時は、さぞアリアス大統領は絶対的な国民の人気を集めているのだろうと思っていました。ところが、驚いたことにコスタリカではまったく不評なのです。期待していたのにまったく裏切られたという声があちこちで聞かれました。どうやらその理由は、最近アリアス大統領が積極的に進めようとしているアメリカとの自由貿易協定のようです。もしそれが調印されたらコスタリカの文化経済に打撃的な影響を及ぼし、独立性が脅かされるというので、国民の大半が反対しています。

アリアス大統領は現在でも国連を舞台に非武装・軍縮外交を積極的に進めています。もちろん、それは自国の平和憲法を実践している実績があるからこそできることで、実質骨抜きにされた平和憲法をもつ日本が、同じ平和外交をやろうとしても確かに説得力がないでしょう。でも、そのアリアス大統領がどうして国民の大半が反対している自由貿易協定をアメリカと強引に結ぼうとしているのでしょうか。私はそこに、彼が置かれている立場上の苦渋の選択があるのではないかと想像しています。平和と経済を天秤にかけているのではないかと。実際コスタリカには豊かな熱帯林があるだけで、これといった資源も産業もありません。(そのわりには車が多いのには驚きですが、あとで聞いたらみんな見栄で無理して買っているそうです。自動車は100%の関税が掛かるので超贅沢品)そのような貧しい国はおしなべて観光業つまりツーリズム、そしてコーヒーといった換金作物で経済を支えているのが通常です。そしてメディアが決して取り上げないことがあります。それはアメリカ軍基地の存在です。貧しい第三世界の国々を見渡すと、ほとんどの国にアメリカの軍基地があります。言い換えれば、アメリカ軍に土地を提供することで経済が成り立っているところが多いのです。世界のどこを見渡しても、貧しい国は軍事基地とツーリズムでなんとかやっているのが通常です。軍事産業とツーリズムはそのように密接につながっています。でもコスタリカは平和憲法上それができません。アリアス大統領の苦渋の選択はそんなところではないでしょうか。きっとすごいアメリカ政府からの圧力があるんだと思います。基地をとるか、経済をとるか。

Cecilia JPG

コスタリカのアリエス大統領の姉(妹?)・セシリア・アリエスさんときくちゆみ


さて、改憲問題に揺れる日本のことを思うとこころが重たくなりますが、コスタリカでアリアス大統領の妹さんのセシリアさんに会いました。憲法9条が無くなってしまうかもしれないという日本の事情を伝え、なんとかアリアス大統領に日本に来てもらって国会で演説してもらえないかと訊ねると協力しましょうと言ってくれました。実現するよう祈りましょう。

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