1930年代から50年代にかけてのアメリカンフォークソングを少しでもかじった経験がある人は、ウディ・ガスリーという名前をどこかで聞いているでしょう。ガスリーこそアメリカンフォークソングの始祖とも言うべきひとで、アメリカ中をギターを抱えて旅してまわり各地に埋もれている民謡を掘り起こし、また社会の底辺の人びとの生活の歌をつくり、それこそ現代のあらゆる音楽に多大な影響を与えた伝説の人です。曲は1000曲以上にもなるそうです。それまで恋愛だけのカントリーミュージックや黒人のブルースしかなかったアメリカ音楽に、ひとびとを啓蒙する社会派ミュージックという新しい扉を開けたのがガスリーです。一時期ピート・シーガーと一緒に放浪の旅をしていました。ボブ・ディランも非常に尊敬していて死ぬ直前まで面倒をみていたそうです。ジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」の映画(1940年制作)を観ましたか。あの中で歌っているのがガスリーです。This Land Is Your Landはあまりにも有名ですね。
ウディ・ガスリーはスタジオ録音レコードはたくさん残しましたが、どこにもライブ録音が残されていません。息子でやはりフォクシンガーのアーロ・ガスリー(もう60歳ですって!!)でさえお父さんのステージを観たことがないといっているくらいです。
ところが2001年、ガスリーのライブ録音が発見されたのです。ある大学生がこっそり自分の録音機でコンサートを録音していたのです。じつは当時はテープ録音ではなくワイアー録音でした。髪の毛のようなステンレスのワイアーに磁気で録音する方法です。そのワイアー録音が、ガスリーの娘にある日匿名で送られてきたのです。それがなんの録音か内容が書いていなかったので、不審に思っていましたが、なにしろ今はディジタルの時代、そんなワイアー再生機など博物館くらいしか見つかりません。1年かけてやっとそのワイアーを再生できる機械を探し当て、そして聴いたガスリーの家族はびっくりしました。いままで聴いたことがなかったお父さんのライブ録音だったからです。
さて、それからが大変でした。なにしろものがものだけに扱いが大変です。専門家たちに頼んで、現代の再生テクノロジーを駆使して音を修正し、5年たってやっとCDとしてこの9月に世に出せることになったのです。このCDは今年のグラミー賞の歴史的アルバムのベストにノミネートされています。この中のいくつかがちょっとだけウッディ・ガスリーのウェブで聴けますよ。
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