火曜日, 7月 10, 2007

7月10日 "Sicko"

SickoのJPG

日本ではまだあまり話題になっていないかもしれませんが、マイケル・ムーア監督の最新作"Sicko"(なんて訳すんでしょうね。精神的異常者という意味らしいですが、たぶんマイケルは保険会社の経営者を指して「狂ったやつら」と呼んだんでしょう)が、最近全米で封切りされて以来大騒ぎになっています。

映画の内容についてはここで詳しく書きませんが、アメリカの保険会社がいかに悪どく、利潤目的に、貧しい病人たちから金を巻き上げているかを極めてあからさまに暴露したセンセーショナルなドキュメンタリーです。

その反響を伝えるあるメールが今日届いたのでご紹介しましょう。Sicko Spurs Audiences Into Action

テキサスといえば保守の牙城です。なかでもケネディ大統領が暗殺されたダラス市は、カウボーイハットの男たちが "W"のスティッカーを貼った大型四駆車を乗りまわして、イラク戦争とか地球温暖化などは市民の話題にはなりません。ちなみに、“W”サインはブッシュのことです。すこしでも大統領のことを批判したら袋だたきになるようなところなのです。 

この記事を書いたひとは、もちろんいわゆるリベラル派で、いつもは住んでいるダラスでは肩身が狭い想いをしているわけですが、"Sicko"を観に、それもどう人びとが反応するか興味があって、一般の人の行くようなモールの中にある映画館に行ったそうです。そのときの様子がこう書かれています。

「席に座ると、お決まりのカウボーイハットをかぶった50代とみられるいかにも保守的な男がうしろに入ってきました。そして映画館内に響くような強いテキサスなまりの声で隣に座ったその男の妻に『これを観にわざわざきてやったんだぞ。ありがたく思え』と言ったのです。

"Sicko"が始まりました。でも、私のうしろに座ったこの典型的なレッドネックのテキサス男はしゃべり通しなのです。それで私は聴いていました。

最初の10〜20分間、この男は彼の妻にむかってマイケル・ムーアをけなし続け、ムーア監督のお得意の独り言のシーンにくると鼻をならして不快感をあらわにしました。

でも、映画が進行するにつれ、この男の抗議の声がだんだん小さくなり静かになっていきました。映画の中頃になって、"Sicko"がこの男の心を変化させたことに私の耳がきづきました。

45分を経過したころになると、このレッドネック男は、なんと、ほかの観客と一緒になって思わず拍手しはじめたのです。もう映画をあざけるようなことはせず、スクリーンに向って『そうだ!こんちきしょうめ!』と叫び始めたのです。まるで世界がひっくり返ったようです。ここはテキサスなんです。大統領は神様みたいなもので民主党を支持するのはみんなテロリストだなんていうのですから、マイケル・ムーアなぞは人民の敵ナンバーワンのはずです。


映画が終わる頃になると、その人民の敵ナンバーワンがジョージ・ワシントンかアブラハム・リンカーンかジョン・F・ケネディか、それをみんな足したものになっていました。

最後のエンドロールになると観客はぞろぞろと出て行きトイレに向いました。小便をしながらも、このレッドネック男は映画の感想をしゃべりまくり、それを私も聴いていました。彼がたまたまとなりで用をたしていた40代の黒人と話し始めると、まもなく全員が用足ししながら、なんてあらゆることがひどいんだと話し始めたのです。

わたしはちょっと距離をおいて、みんなと一緒にトイレから出ました。トイレの外では・・映画館が大変なことになっていました。

女性トイレの前が、"Sicko"を観た観客でいっぱいになって、即席の市民集会場に様変わりしていたのです。

こんなことは見たことがありません。ここはあのテキサスなんです。フランスでもなければどこかのリベラルな大学のキャンパスでもないんです。ところがいまここで、まったく見知らぬひとびと同士が興奮して映画のことを話し合っているんです。まるで今観たことでなにかやらないとこのまま家には帰れないという感じです。

レッドネック男とその黒人は、女性トイレの前のひとだかりの中にかれらの妻たちを見つけました。私は、私の妻が出てくるのをうしろで待っていました。

やがて、話しは見知らぬ人びとの群れのうちの10〜12人を中心になっていき、私たちがそのまわりに立って耳をそばだてるかたちになりました。

レッドネック男がトイレで知り合ったあの黒人が大きな声で叫んだのでみんながいっせいに静かになりました。30〜40人の目がこの黒人に注がれました。

『俺たちがこれを観て、それでなにもしなかったら』彼は言いました、『何の意味がある?なにか変えなければいけない』。沈黙があり、するとあのレッドネックの妻がEメールのアドレスを交換しようと言い出しました。突然、みんなが全員のアドレスをメモしはじめ、また集まってなにかしようということになったのです。なにをするのか分かっているひとは誰もいないようでしたが。

私はなにか稀に見る奇妙な抗議集会デモに足を踏み入れたような気になりました。ただ、それはヒッピーたちではなく、なにかにこころを深く動かされたあらゆる年齢、人種、階層、職業のひとびとが一緒になった集まりでした。

私の30年にわたる人生で、この映画ほどひとびとに一体感を与えたものは考えられません。それはまるで新しい政治運動の出生に出会わせたような経験でした。9・11以後でさえ、すくなくてもテキサスでは、このような反応はありません。もし"Sicko"に本当にこのようなパワーがあるのなら、マイケル・ムーアは驚きを超えたすごいことをやったものです。もし、それが人びとを変え、テキサスでも超保守の温床とされるところでひとびとにこのような影響を与えることができるなら、"Sicko"は単なるすごい映画というだけではなく、これを観ることが人生でもっとも重要なことのひとつになるでしょう。」
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なにかがアメリカで起こりつつあることを、これが多少誇張された話しとしても、感じませんか。

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