ところで、この養殖サケが単に有毒化学物質を含んでいるという問題だけでなく、もっと深刻な問題を引き起こしていることを最近知りました。
現在大規模なサケ養殖が行われているのは、カナダの太平洋側西沿岸と南米のチリです。ところが、サケの養殖が約20年前に始まって以来、天然サケの数が激減しているのです。科学者はその原因を、サケ養殖からの寄生虫と病原菌による感染だと考えています。例えば南米チリでは、毎年何百万もの外来種のサケが海上の養殖網を破って逃亡し、それらは在来種のサケのいる本来の川などの生態系を荒らす侵入種になっています。
Total production of farmed Atlantic salmon during 1980-2006 (in metric tons round fresh weight). Note that data for 2006 are provisional. Source: ICES (2007) URL
1980年から2006年の養殖大西洋サケ国別総生産量(2006年は想定数)
このグラフのように、ノルウェー、チリ、スコットランド(英国),カナダが主要な生産国です。でも、毎年200万匹を越える養殖サケが網から逃れているとされています。これは実に天然サケの数の半分に相当するそうです。これらの養殖サケが天然サケと交配してできたサケは環境への順応力に劣り寿命が短いので少なくても2世代で生き残る数が減少すると言われています。
養殖サケは最高の成長率と回収を目的として開発された品種改良種です。しかし、親戚である天然のサケは何千年の進化をとげて、厳しい自然と適応できるようになっています。ですから生産者と消費者の都合に合わせて造られた養殖サケは不利なところがたくさんあります。まず流線型な体型がなくなり、ヒレも短く、脂肪分が多く、心臓の形も違って水泳能力が劣っています。ですから大海での生存能力は劣ります。
これだけでは問題にはなりません。問題は逃げた養殖サケが天然サケと交配するからなのです。それによって天然サケの遺伝子に影響を与え、結果としてその生存率を低下させているのです。
10年間にわたる調査研究によれば、このようなハイブリッド交配サケの70%は生命を得てから最初の数週間で死んでしまうそうです。そして、生き残ったものはさらに天然サケの遺伝子を汚染することになってしまうのです。
それにもかかわらず、養殖サケや交配サケは、それらが若い間には天然種よりも競争力に優れていることが分かっています。それは養殖サケの方が攻撃的な性質があり、成長も早いからです。
ですから、養殖サケとその交配サケは、天然サケの餌や生態系や縄張り領域を直接に犯し、競争することで、天然サケ種の数を減らす要因になっています。
このようなサケ養殖が持続不可能で環境破壊的であるという議論がまったくされていない現実があります。養殖サケを1キロ生産するのに、3〜4キロの天然魚の餌が必要とされるそうです。養殖網の囲いの中の海底は、100万匹も飼われているサケの糞尿に埋もれてまったく生命のない場所になっているのが普通です。それで、水中酸素がなくなって死の海になるので、ときどき養殖所は新しい場所に移る必要があるのです。
チリでは、いわゆる養殖漁業権の賃貸更新が年間わずか100ドルという安さなので、どこが最初の場所なのか分からないほどになっています。この15年間に700近いサケ養殖所ができて、生産量も世界2位になりました。ここで成長したアトランティック(大西洋)サケのほとんどが日本や北アメリカ、ヨーロッパに売られて行きます。
陸上の囲われた場所に飼育される大量の家畜のように、サケにも大変な量の抗生物質やホルモン剤が投入されます。それでも昨年には、強力なウイルスがチリのサケ養殖場に猛威をふるい、生産量が半分に落ちました。ウイルスの発生を抑えることができずに、養殖所は何百キロも離れた新しい場所に移されましたが、あとには、地元に失業者と汚染された海と海底が残されたのです。
しかし、このウイルスが他の生物種にどのような影響を与えているのかという調査はまったくされていません。チリでは、何百万ものサケが逃亡し、他の魚を餌にしています。すでにそれらは養殖場のない遠く離れた隣のアルゼンチンの河川や湖にまで侵入しているそうです。こういう問題に対してなんら調査もされていませんし、業界もまったく問題ないという態度をとっています。
まあ、サケがチリの全輸出の第2位を占めていることを考えれば、チリ政府がその”悪影響”に目をつむっているのは理解できます。でも、事態は相当深刻になっているようですので、いずれ世界的な問題に発展することは間違いないでしょう。
一方、カナダの太平洋側ではそれなりの調査研究が行われています。研究者たちは野生サケの生息数の減少はその地域にある100以上のサケ養殖場に関係していると考えています。海洋生物学者は、サケ養殖場からの寄生虫感染によって、ある天然サケ種は2011年までには絶滅するだろうと警告しています。バンクーバーの北300キロにあるブロートン諸島でのピンクサーモンの年間漁獲量の80%以上が2001年以来このような寄生虫によって殺されています。カナダでの養殖場の影響調査研究を重ねて来ている生物学者のアレクサンドラ・モートン博士は、「サケ養殖場はガンのようです。そこにある生態系を破壊するのです」と語っています。
北アメリカ大陸の北西沿岸は、何種かの天然サケの生息地であり,今でも世界の自然の神秘の一つとされ、海洋生態系の重要な地域になっています。サケは2年以上を海洋で餌を求めて生き、それから産卵のために故郷の河川に戻って、そこで死にます。鷲や熊、オオカミなどの多くの生物が死ぬサケや死んだサケを餌にします。これは以前カナダ出身の作家で冒険家のC.W.ニコルさんが鴨川で講演したときに聴いたことですが、熊は川からサケを喰わえて行って山の木の根もとで食べるんだそうです。しかも、身を全部は食べずに、主に内蔵だけであとは残し、それが腐って腐葉土となり様々な植物を育てるもとになります。特に、その地域で有名な巨大な
レッドシーダー(カナダ杉)の栄養になるといいます。実際、2000年の樹齢木のてっぺんにあった葉から、サケの栄養分が検出されているそうです。
森は、日本でも”魚つき林”といって漁業者たちが大事にしてきたように、水系を豊かにする源と考えられてきました。サケと熊とレッドシーダーとの関係も、自然が織りなす持続するための知恵です。
ところで、カナダでサケ養殖場をやっているのは、ノルウェーの会社です。その中でも最大手のマリン・ハーベスト会社は昨年には34万トンものサケを生産していますが、このような問題が起きていることをやっと最近認めてきています。今やっとWWFのような自然環境団体と政府と一緒に持続可能なサケ養殖の可能性を求める話し合いが始まったばかりです。
でも、そのような環境破壊のない持続可能な養殖がそもそも可能か、はっきり言って疑問です。
6 件のコメント:
こんにちわ。いつもありがとうございます。
養殖サケの話は、やはり・・と思いました。私は養殖の魚を食べるのをやめてどのくらいなるのか忘れましたが、養殖ブリにしてもなんともいえない臭みが鼻についてから食べられなくなりました。北海道では天然サケも激減しているニュースを耳にしました。環境を訴えながら日本のマスコミは一番大切なことは中々伝えません。私達が暮らさせていただいている地球を想うと、本当に人間の愚かさと傲慢さを感じるばかりです。食肉にしても想像するとかわいそうですし恐ろしいとさえ感じています。
地球のために何をしたら良いのか
考えさせられる内容でした。
はじめまして。興味深く読ませて頂きました。私は肉も魚も野菜もキッチリ食べるアンチ菜食主義ですが、養殖というのはやはり問題があるようですね。こりゃ完全に人間の浅知恵のしっぺ返しですな。あるがままの生態系をいじるとロクな事ありませんね。
人間がこの限られた地球という生態系の中で、どう人間らしく、秩序を保って生きながらえていくことができるのか。もうそろそろ全員で考えないと手遅れになってしまうかもしれませんね。そこで私は、まず自分のからだの調和を最優先に考えます。自分のからだに害を与えるものは避ける、よいものをとりいれる。そうやってそれぞれが自己のいのちの責任を全うして行けば自然に地球が癒されると思っています。
こんにちわ。
玄さんのコメント読みました。
私も玄さんと同じ意見です。
ここの所、日本では食品偽装等で食に対しての安全性が問われています。最終的には自らの判断が大切だと思います。
ところで玄さん、マシュー君の
「天国の真実」読ませていただきました。第二段は発刊されないのでしょうか。教えてください。
匿名さん
マシューブック2(Revelation「啓示」)は現在翻訳中です。なかなか難解でてこずっておりますが、なんとか来年早々には出版したいと思っています。
忙しい中でのお返事ありがとうございます。
マシューブック2出版されるんですね。またまた楽しみが増えました。私は時々日本文でも理解できない箇所が有るので翻訳は本当に大変だと思います。でも来年楽しみにお待ちしています。
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