金曜日, 1月 16, 2009

地下鉄のバイオリニスト

「地下鉄のバイオリニスト」

一人の男がワシントンDCの地下鉄駅構内に立ってバイオリンを弾き始めた。

1月のある寒い朝だった。彼はバッハの曲を6曲約45分間演奏した。その時間帯はラッシュアワーで、約1000人がその駅を通った計算だ。ほとんどの人たちは仕事に行くところだった。

3分を過ぎた所で、一人の中年の男性が音楽家が演奏していることに気づいた。彼は歩くペースを緩め、数秒間立ち止まったが、やがて自分の予定に急いで戻って行った。

1分後、バイオリニストは最初の1ドルのチップを受け取った。一人の女性が箱にお金を投げ入れ、そして止まることなく歩き続けた。

数分後、壁にもたれて彼の音楽を聴く者がいたが、その男性は腕時計を見てまた歩き始めた。彼は明らかに仕事に遅れていた。

もっとも注意を払ったのは3歳の男の子だった。彼の母親がその子を引っぱって急ごうとしたが、その子は立ち止まってバイオリニストを見ていた。最後に母親が強く押したので、その子どもは何回も振り返りながら歩き続けた。このような動作が他の何人かの子どもたちによって繰り返された。親たちは、例外なく、子どもたちを先に急がせた。

その音楽家が演奏した45分間で、わずか6人が立ち止まってしばらくそこにいた。約20人がお金を彼にあげたが、ペースを緩めることなく歩き続けた。彼は32ドル集めた。彼が演奏を終えると、辺りは静かになったが、誰もそのことに気づかなかった。拍手する者はだれもいず、だれも気づかなかった。

誰も知らなかったが、そのバイオリニストは世界の最も優れた音楽家の一人であるジョシュア・ベルだった。彼はこれまで書かれたうちで最も難解とされる曲のひとつを演奏した。350万ドルの価値あるバイオリンで。

地下鉄で演奏する2日前に催されたジョシュア・ベルのボストンでのコンサートは売り切れていた。そのチケットは平均で100ドルだった。

これは本当の話だ。地下鉄駅でジョシュア・ベルがお忍びで演奏することを企画したのは、ワシントンポストで、これは人々の認知、テースト(嗜好)、優先順位についての社会実験のひとつだった。

その企画の概要はこうだった。
ありふれた環境で、都合の悪い時間に、
私たちは美を認知するか?
足を止めてそれを観賞するか?
予想できない状況でも才能を認知するか?

この経験から得られる結論のひとつはこうだろう。

世界最高と言われる音楽家のひとりが最高の作曲と言われる曲を演奏するのに、一瞬たりとも立ち止まって聴くことをしないのならば、私たちはどれほどのものを見過ごしているだろうか?

原文:ワシントンポスト
訳文責:森田 玄
         
           ***************

以上は、ワシントンポストに載ったある記事です。ジョシュア・ベルは、僕もよく知りませんでしたが、1967年12月9日生まれの天才バイオリニストです。14歳でフィラデルフィア交響楽団と共演してデビューしているんですね。ところで、ジョシュア・ベルのバイオリンはアントニオ・シュトラディバリ1713年製の手作りで「ギブソン」と呼ばれる名器で5億円を払って手に入れたのものだそうです。

ところで、この実験バイオリン弾き物語が起きたのは2年前の1月だったそうです。ジョシュア・ベルが演奏したのはバッハの「無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ」の中の最も有名なパルティータ第2番ニ短調の6曲のようです。これは終曲によく知られる「シャコンヌ」があり、非常に難度の高いテクニックが要求される曲です。

野球帽を被ったジーパンの若ものがくず箱の脇に立って、この曲を5億円のシュトラディバリウスでワシントンDCのラシュアワーの地下鉄構内で弾いたわけです。もし、そこに私がいたらどうしたか?・・・たぶん、何気なく通り過ぎてしまうのかな。

20 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。

記憶が曖昧なのですが、その演奏の模様を固定カメラで撮影したビデオ映像がYouTube(か、ニュースサイト)にあったと思います。
記事をよく読まなかったので、上手い大道芸人の演奏としか思わなかったのですが、そんな凄い演奏家だったのですね。
あとでもう一度探してみます。

それにしても、やはり子どもは率直に反応するのですね。

匿名 さんのコメント...

あ"~,ありましたありました。

http://jp.youtube.com/watch?v=hnOPu0_YWhw&feature=related

匿名 さんのコメント...

とてもイイ話でした。
逆を言うと、評価されていないだけで、
「つまらないもの」の中には、
とても素晴らしいものがどれほどあるだろう
と思います。
いや、つまらないものなど、本当は何も無いのかもしれませんが・・・

ありがとうございます。

森田 玄 さんのコメント...

GodChildさん

ありがとうございます。ええ、この映像は知っていましたが、アップするのが後になってしまいました。

匿名 さんのコメント...

面白い実験ですね。ベルがそういうことをしたとは知りませんでした。

芸術はファストフードではないですし、場所が地下鉄駅でしたら・・・それぞれがそれぞれの目的のことで忙しく動いていますから、移動が目的の場でせわしない中では、なかなか気に留まらないのでしょうね。

おとぎのへや さんのコメント...
このコメントは投稿者によって削除されました。
匿名 さんのコメント...

記事を拝見しました。
ぜひみなさんに読んでいただきたいと思ったので、私のブログに転載させていただきました。
以下がサイトURLです。

http://aikosays.jugem.jp

これからも楽しみに見させていただきます。
ありがとうございます!

匿名 さんのコメント...

玄さん

ステキなお話を紹介してくれてありがとうございます。
わたしのブログにリンクさせてくださいね。

いつもいつもありがとう♪

喜多見 明日香 さんのコメント...

玄さん
はじめまして。
コーチング仲間のMLで
昨日この記事を紹介され

今朝(2010年5月14日)
私のブログにも
紹介させていただきました。

心揺さぶられました。
ありがとうございます。

喜多見 明日香
http://lifeartcoaching.com/

カールおじさん さんのコメント...

玄さん。

はじめまして。
山本潤子さんのブログからたどり着きました。

大変興味深い記事でしたので転載させていただきました。これを機会に「玄さんのブログ」を読ませていただきます。

当方のURLは以下の通りで、5月15日に掲示させていただいています。

よろしくお願い致します。

http://hennshuuchou.blogspot.com/

Unknown さんのコメント...

ちょっと意図するところが違っていますが、「無伴奏シャコンヌ」という映画に、似たようなシーンがありますね。やはり、料理には相応の皿を必要とするのかもしれません。

tanup さんのコメント...

素晴らしい演奏は掛け値なしに人の心を捉えると思うのですが、忙しいとそうもいかないのでしょうねぇ。
私がこの瞬間に居合わせたら、この演奏を聴き続けるというのはかなりプライオリティが高くなると思いますけどね。
そうやって寄り道が多いから遅刻も多い私です。(^^;

とても面白い記事なのでブログにリンクさせてください。

Unknown さんのコメント...

はじめまして。

たまたまTwitterのログイン画面のところでリンクを見かけました。

示唆に富む話をありがとうございます。

私は営業のコンサルをしていますが、商品力だけでは売れないという例えに使わせていただきます。

匿名 さんのコメント...

はじめまして、「コーチまるこの毎日」からこの記事を知りました。
You Tubuもみました、日々これに近いことが自分のまわりでもあるなぁ・・・と思いました。
毎月お友達に出している通信に載せさせてください。

匿名 さんのコメント...

はじめまして。
いつも楽しく拝読させて頂いてます。
この記事にとても心を動かされました。
私の周りの人たちとも是非シェアしたいお話でした。
コピペさせてください。

美しいものを美しいと感じる心と
足をとめる、とめられる余裕を持つ人生に
していこうと思います。

森田 玄 さんのコメント...

匿名さん

今日(9/11/2011)の投稿に思わず「うんそうだね」と頷きました。いまはあらゆるレベルでチャレンジの時です。そのときこそ、美しいものを見、聴いて感動することが、もっとも「生きる」ことの実感であり、貴重なことですね。この大事なことをあらためて思い起こさせてくれたことに感謝します。玄

Unknown さんのコメント...

初めまして。たまたまこの記事を見つけてきたものです。
是非シェアさせてください。色々なことを考えさせられる話でした。人間の意識って、不思議なものですね。

匿名 さんのコメント...

はじめまして。
何気なく辿り着いた記事に
惹き込まれてしまいました。

気付きの多い内容ですね。
講演の例えに使わせて下さい。

匿名 さんのコメント...

こんばんは。
そこで立ち止まって音楽を聞いてしまうと、学校や職場に遅刻するから、みなそのまま立ち去るのではないでしょうか?いい音楽をしていたからと言う理由で遅刻が認められるはずがないので。ベルだと気づいていながら見過ごした人もいるかも知れません。

匿名 さんのコメント...

> ベルだと気づいていながら見過ごした人もいるかも知れません。

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